年間約500冊の漫画を購入する生活を20年以上続ける“マンガマニア”で、“マンガ大賞”の発起人でもあるニッポン放送アナウンサー吉田尚記が毎週1冊オススメの漫画を紹介する「講談社presents 吉田尚記のコミパラ!」
節目となる第20回目にご紹介したのは、『月刊少年マガジン』にて、好評連載中の漫画業界トラブルコメディ漫画「かくしごと」(著:久米田康治)。
植田まさし先生が描くなら“4コマギャグマンガ”。楳図かずお先生が描くなら、“ホラー漫画”や“ギャグ漫画”など、「この作家さんが描くならこういう漫画なんだろうな」というのがあると吉田アナウンサーは語り始めた――。
吉田:今日はですね、この人が描いたら、絶対、一筋縄ではないぞ!という、
漫画界最大のトリックスターの作品をご紹介したいと思いまして、それがですね、
久米田康治さんという漫画家さんなんですが、この方が凄い特殊な漫画家さんなんですよ。
どう特殊かというと、まず、デビューが『サンデー』です。そのあと、『マガジン』で
連載しているんです。歴史上、『サンデー』『マガジン』の両方で連載しているのって
赤塚不二夫先生くらいしかいないんですよ。
里崎:あっはっはっは(笑)そうなんですか!?
吉田:メチャクチャ珍しい!
デビューした漫画雑誌や出版社で描き続ける漫画家さんも多い中、今回、ご紹介する漫画の作者・久米田康治先生は、『サンデー』で連載した後、『マガジン』でも連載しているという非常に珍しい経歴を持っている。
吉田:この久米田康治さんは、何の因果か、『サンデー』でデビューしたあとに、
『マガジン』に移っているんです。
里崎:FA移籍ですね。
吉田:そうですね。イメージ的に言うと。何でそうなったかというと、『サンデー』って基本的に
割と可愛い絵のラブコメとかが多い中で、永遠、下ネタの漫画を描き続けていた。
この久米田康治さんって人は。『行け!!南国アイスホッケー部』って漫画があったんですけど。
そのあとに、『マガジン』に移ってきて、『マガジン』は男たちの闘い、スポーツ、
職業モノとかいっぱい描く中で、永遠、パロディを描き続けていた。
そういう方がこの久米田康治さんという方で、得意技は、“メタ”なギャグを連発するんですよ。
“メタ”とは、“メタフィクション”の略称であり、簡単に説明すると、漫画や小説などの作品が作り話であるということを意図的に読者に気付かせる手法のことである。
作者(を模したキャラクター)が作中に現れて読者に語り掛けたり、作中の登場人物が自分が作品の中のキャラクターであることが分かっているかのような発言をしたり――
という手法が例として挙げられる。
吉田:そのメタなギャグを多様に多様を重ねた、さっき言ったこの人が描いたらスポ根とか、
水島新司が描いたら野球漫画みたなのと同じように、
久米田康治が描くなら“メタ”!っていうのが、ほぼ皆が読めている。
里崎:もう定説なんですね。
吉田:じゃあ、何をテーマに“メタ”な漫画を描くのか? その『マガジン』で連載していた
『さよなら絶望先生』っていう作品は、先生なのに口癖が「絶望した!」で子供たちに
絶望を説いて回る先生が主人公だったんですね。
里崎:いらねー、そんな先生(笑)
吉田:だから、面白かったんですけど。そんな久米田康治さんがなんと、今回、
テーマに選んだのが、“漫画家”!主人公、“漫画家”!!
里崎:これ、ノンフィクションじゃないんですか?
吉田:これがね、相当、面白い。どう面白いかというと、まず、タイトル言ってなかったですよね?
タイトル『かくしごと』って言うんですよ。
里崎:漫画家なのに?
吉田:“描く仕事(かくしごと)”じゃないですか?
里崎:おおっ!
吉田:“描く仕事(かくしごと)”っていうのと、同時に、主人公が漫画家さんなんですけど、
娘さんがいて、でも、ほとんど久米田先生みたいになっているんですよ。
昔というか今も漫画としては、下ネタの漫画を描き続けていて、
これが学校でバレたら娘がイジメられてしまうといけないから、
娘にすら自分が漫画家であることを隠している。“隠しごと”と“描く仕事”で
「かくしごと」と。ここですでにもうちょっと“メタ”じゃないですか!?
主人公の先生(漫画家)の名前が、後藤可久士(ごとう・かくし)さん。
まぁ、“隠しごと”ですよね。娘さんが、後藤姫(ごとう・ひめ)ちゃん。
“秘めごと”ですよ。みたいな2人が出てきて、あとは永遠、ギャグなんですよ。
永遠、ギャグが続いてて、アシスタントさんと揉めたりとか、今だと、締切ギリギリの
漫画家さんがホテルに缶詰めにされるとか聞くじゃないですか? 「30年業界にいるけど、
聞いたことありません」っていうことをぶっちゃけてたりとか。
本当に自分の実体験なので、実話に基づいていますみたいな話もギャグ漫画だから、
基本的に「そんなんないだろ!」って話がいっぱい出てきたりする中に
1個だけ実話に近い話があるんですよって話が、警察が自分の仕事場に
来た話だったりするんですって。
里崎:何でですか?
吉田:漫画家さんってあり得ない物語を描くじゃないですか? スポーツだったりとか、
それこそ、ガンマンが出てくるとか漫画なら当たり前でしょ?
元々は、普通の民家で描いている訳ですよ。漫画家屋さんみたいなお店の店舗はないから。
民家に漫画を描くためにアシスタントさんとか編集さんとか出入りするから、
不特定多数の男女が出入りし、なおかつ、その人たちが持っている物がモデルガンだったりとか、
ちょっと危険物に見える物を持ち込んでいるので、公安の人とかが来ちゃったりする。
何か近くで事件があったときに、激しく疑われるっていうような回が
あったりするんですけど、これがほぼ本当に近いみたいな。
里崎:ちょっと飽きさせない漫画ですね!
実話に基づいた“メタ”話や漫画業界の裏話的な話だけでも面白い『かくしごと』だが、吉田アナウンサーはさらに、面白い“久米田康治的メタ”なポイントが2つあるという――。
吉田:いや、本当によくこれだけのアイデアがいっぱい出てくるなってものの中に2つ、
僕が本当に“久米田康治メタ”ってポイントがあって、毎回1話1話ごとに、
漫画雑誌(の一番後ろのページ)に先生の近況みたいな書いてあるじゃないですか。
一言一言。例えば、漫画家さんはペンネームにしないと大変だ、みたいな話があるんですよ。
本名だと漫画を描いているのがバレたりするから。ペンネームにするって回に、
スタジオの名前とかも変えようとしていると、結局、普通の名前に
(主人公の)後藤可久士さんは作中でしているんですけど、それを物語として描いたあとに、
近況コーナーをわざわざ毎回、毎回、漫画の1か所に作っているんですよ。
その回の後藤可久士先生の近況は、
「昔、スタジオ尻児玉にしようかと思ったけど止めて良かった」
って書いてあったりするんですよ。こういうところが凝っているなっていうやつと。
あと、1話1話ごとに付いているサブタイトルが漫画の好きな人は全部が何かの
漫画のダジャレになっています!凄いです!例えば、美容師さんと会話をするときに
正体バレたくないみたいな回は、『エア・ギア』って漫画が昔あったんですけど、
『ヘア・ギア』ってサブタイトルになってたりとか、全部、凝り凝り!
これでギャグマンガとして笑って読んでて良いんですけど、今回、1個だけ「あっ!」って
思ったのは、絶対に照れ屋だから良い話を描かないタイプの久米田康治さんが娘に対して
ホロリとなる父親の話がちょいちょい出てくるんですよ。それがどうも、
娘にどこかでバレちゃうのかな? 単行本になった場合だけカラーページでちょっと
大人になった娘さんが出てきてるんですよ。ここに最終的にどう繋がるのかが今、
分からないまま3巻まで進んでるんです!ちょっとね、久米田さんこれ、
遺作にするつもりじゃないかなと、勝手に思っている。
『月刊少年マガジン』にて、好評連載中の漫画業界トラブルコメディ漫画「かくしごと」(著:久米田康治)。
ヒット作を数々手掛けてきた久米田康治先生の真骨頂ともいうべき作品となっている。